山と自転車

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【雪山デビューに】黒斑山日帰り登山〜ガトーショコラを見に行こう〜【新年初登山】2023.1

ガトーショコラを目の前で見たいんだ!

年末年始もなんだかんだと仕事が完全には休めず、時は唯一完全なる休みを勝ち得た2023年1月3日。何をするかって?もちろん新年初登山です。

今回は私、師匠、KW氏と雪山初参戦のFR氏の4名で挑みます。2022年登り納めに引き続き、うち1名が雪山デビューを果たしました。毎回雪山山行でデビュー者がいるのでそろそろ身の回りに雪山未経験者がいなくなった気がします。師匠、恐ろしい男。

タイトルの通り、ガトーショコラこと冠雪の浅間山を間近で拝むべく、雪山初心者向けとして名高い浅間山外輪山で日本百名山の一つでもある黒斑山の登山記録です。

山行データ

登山口 高峰高原ビジターセンター

登山口の高峰高原ビジターセンターまでは甲府の自宅より2時間ちょっと。甲府昭和ICから長坂ICまで高速、以降は下道で長野佐久市方面に進みます。

朝7時30分に集合し、10:37に登山開始です。高峰温泉ビジターセンターの駐車場に車を停め登山口はすぐ近くにある車坂峠になります。この時点で標高は2000m近く、なんとマイナス8℃です。雪は多いものの道路は除雪されているので二駆でもスノータイヤさえ履いていれば問題なく辿り着くことができます。

コースの大半は樹林帯で危険箇所は少ない

黒斑山までは標高差400mほどで、大半は林間を進み滑落の危険があるような稜線歩きは殆どないため雪山デビューに最適な山の一つです。ただしもちろん極地環境なので雪山登山にふさわしい装備は必要です。間違っても汗をかいたらリカバリー不能なヒートテックとかスキーウェアなんかで来てはいけません。

登山口。雪質は新雪に近いふかふかで、グリップもよく効きます。傾斜も緩いためしばらくはアイゼンは装着せずにストックのみで進んでいきます。我々は師匠の方針で可能な限りアイゼンを履かないことが多いのですが、これは身体の軸を意識するとか歩き方を養うという高尚な目的ではなくひとえに脱着を面倒臭がっているだけです。ほとんどの人たちは最初からアイゼンないしワカンを装着していたのでぜひそうするべきだと思います。

しばらくは林間歩きですが標高2000m近くあるので木々の切れ間からの眺望は抜群です。

登山開始20分程で最初の急斜面と遭遇しました。最初はスキーの要領で滑るようにして下っていましたが、初心者もいるのでアイゼンを装着することにしました。何度も言いますがこのくらいの雪山なら最初からアイゼンを履かない必然性はないので、素直にフル装備してから登り始めましょう。

青と白の世界

正月は晴れ率が高くて素晴らしい。

私の愛用する雪山靴はモンベルのフラグシップモデルであるアルパインクルーザー3000。ソールがより雪山に適しているのか、3シーズン靴で登っていた他のメンバーよりも明らかに滑らず、雪をしっかり捉えてくれていて、このくらいの斜度ならアイゼン無しでも登ることができます。

…とはいえやはり12本爪アイゼンを履くと世界が変わりました。滑りづらいとかじゃなくて、滑らなくなります。無駄な労力が減るのでやはり最初から以下略。

アルパインな師匠。山岳雑誌にありそうな一枚です。

遠目に見える平らな積雪、ど真ん中には王ヶ頭ホテル周辺の塔が見えます。ということで写真に写っているのは美ヶ原ですね。相当な星空が望めるらしいので一度でいいから真冬に泊まって天体観測してみたいです。

標高が上がってくるにつれ人間の侵入を拒むかのように雪深くなってきました。しかし師匠が雪山デビューにイチオシするだけのことはあってここまで寒さ以外で危険を感じることはありません。デビュー戦の彼もはしゃぎながら登っています。

登り始めて1時間強、目的のガトーショコラの頭が見え始めました。

絵本の世界に出てきそうな冬の森。

避難小屋?

視界に空が増え始めてくる頃、何やら不思議な建物が出てきました。

避難小屋にしてはストイックすぎるこの建物。その正体は山中にいる時に噴火した時の逃げ場らしいです。そういえば浅間山は活火山でした。

中国で高値で取引されるというシャクナゲ。密輸が問題になり現在は採取禁止です。

槍ヶ鞘 ガトーショコラビューポイント

先程の避難小屋(?)を過ぎると最初のチェックポイント、槍ヶ鞘に到達します。ここでようやく本日の目的、ガトーショコラの全容を掴みました。眺望が良く木々に囲まれているので風に煽られることもありません。ここまで来ると黒斑山山頂までもあと一息というところ。

次の目的地は槍ヶ鞘から距離は目と鼻の、トーミの頭です。こうしてみると超アルパインな道に見えますが、実際は道幅が広く斜度もそれほどきつくないのでアイゼンさえあれば初心者でも安全に登ることができます。

このあたりまで来ると今日のゴールである黒斑山山頂が見えてきます。写真中央のアンテナのようなものが立っているところが黒斑山の山頂です。手前の木々のまばらな雪化粧により、このあたりもガトーショコラな見た目です。

トーミの頭 浅間山を正面に捉える

先の槍ヶ鞘よりもさらにド正面にガトーショコラを望むのが2つ目の看板ポイント、トーミの頭です。こちらは槍ヶ鞘と異なり木々に遮られていないのでとんでもない爆風が吹き付けてきます。しんぢゃう。先日の八ヶ岳の爆風に比べればマシですが、マイナス14℃の中で風を浴びるのは本能的に危機を感じます。

師匠は齢40を過ぎ、我々も気づけば30間近のアラサーofアラサーです。みんなで写真撮ろうぜなんて言い出す者はおらず、辛くも看板の写真を撮って早々に木々の中に撤退しました。

ところでこの変わった場所の名前の元になったトーミ氏とは、浅間山に魅せられこの地で生涯を全うした20世紀を代表するアメリカの登山家で……なんてことはなく、そもそも人名ですらありません。遠くが見える「遠見」です。そのまんま。遠見って見たことある字面だなと思ったら神作品やがて君になるの遠見東高校ですね。

alu.jp

トーミの頭から槍ヶ鞘方面です。右端に登山者が写っています。こちらから見ると先程の写真とはずいぶん異なりなだらかな道に見えます。

現在は火山活動の関係で浅間山自体のピークを踏むことはできないので一番近くが前掛山というところになります。写真のトレースは湯の平→前掛山登山口→前掛山の登山道です。この日遠目にみる限り登山者は1,2組くらいでした。

さてトーミの頭から黒斑山は10分程度、森の中を歩けば到達します。

周回ルートを目指すも…

本日の行程は

①黒斑山から時計回りに蛇骨山→仙人岳→Jバンド、と周回する 

②トーミの頭か湯の平口に降りて反時計回りに周回しJバンドから黒斑山を経て戻ってくる

の2パターンを想定していました。①は湯の平からの登りが最後、②はJバンドへの登りが序盤になる、ということで先に登りを済ませるべく②を選択しました。

トーミの頭から黒斑山方面に少し進むと黒斑山/湯の平の分岐点が現れます。ここで湯の平方面に進みます。結論を先にいうとこの日の山行は先の①、②のいずれのパターンでもなく、結果的には黒斑山ピストンという形で終了しました。その理由はこの続きを読むと明らかになります。

雪深く過酷な湯の平方面

湯の平への下り、突然これまでと様相が変わり、トレースこそなんとかあるものの雪が非常に崩れやすく人が全然入っていないことが判明しました。修羅の国です。

そしてなかなかの直滑降上級者コースという感じで、滑ったら止まれない気配が漂っています。何より登山者がほかにいないし、ようやく登ってくる人が一人いたものの、ラッセルしながらピッケルを突き刺しクライミングに近い雰囲気で登っておられて鬼の形相でした。我々の今日のメンバー、装備的には場違いな気がしてなりません。

下から見上げたトーミの頭。もしかしてちょっとやばいところにいる?少なくとも雪山デビューで2年ぶり登山の人を連れて来るような場所ではありません。実際、彼は足運びが上手くできず全然進めずにいました。こういうところはこのブログで度々出てくる谷川岳で遭難し生還したTKと来るべきです。

カモシカもルートファインディングに苦戦

そんな彼を見守っていると、対面の崖になんとカモシカが。しかも仲間に入りたそうにこっちを見ています。かもーん!!しかしそんなカモシカもどう降りるか熟慮しているように恐る恐るといった様子で足を進めています。カモシカですら難しい下り、いわんや人間をや。

このルートで唯一の他の登山者、アルパインクライマーと停滞する我らのメンバーです。救出すべく上がりましたが、この登りがまあまあきつい。いや、めちゃくちゃキツいです。荷重するとすぐ足元が崩れてしまい、完全なラッセルです。時刻は13時を過ぎており、さすがに撤退を決意しました。

トップガンマーヴェリック

見上げればこの斜度です。トップガンマーヴェリックで爆弾投下後に急浮上するあの場面です。ああ、視界が遠のいていく…

ひいひい言いながら登り返していきます。先頭を進みながら、後続のためなるべく足元を踏み固めるような足運びを心がけました。

どう見てもお手軽雪山デビューを逸脱した完全なる雪山登山です本当にありがとうございました。

極寒の黒斑山山頂

相当なカロリーを消費しふらふらになりながらようやっと黒斑山山頂に登頂しました。浅間山方面には開けていますが、他は木々に囲まれているため風はある程度凌げます。マイナス14℃だけど。

本日の師匠の雪山飯はなんとローストビーフ丼。米は安心と信頼のジェットボイルで温めて、その間に卵の黄身と白身を分ける作業をしました。何度も言いますがここはマイナス14℃。マイナス14℃の中でローストビーフ丼を食べたことのある人います?

どうなるかというと熱々になったはずの米が秒単位で氷に近づいていきます。冷えるとかじゃなくていきなり凍っていきます。そしてローストビーフは見る見るうちに霜が乗ってフリーズドライみたいになっていきます。

30分弱くらい滞在して、逃げるようにして帰路につきました。本当に寒くてこれ以上は1秒も居られないと思いました。トーミの頭から登山口に戻るには2ルートあるので一応周回的な戻り方をしました。黒斑山へのピストンは確かに初心者でも体力面、技術面ともに特に難点はなく、雪山デビューにはぴったりと思われます。しかし環境としては本当に極地なので装備品はちゃんとしたものを揃えてください。

そんなこんなで新年山初めの雪山登山でした。